過払い金|被相続人の債務の弁済に関する相続人たちの争い


主文

1本訴被告らは,本訴原告に対し,それぞれ30万6810円及びこれらに対する平成14年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2反訴原告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は本訴被告兼反訴原告らの負担とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1本訴事件
主文1項と同旨
2反訴事件
反訴被告は,反訴原告らに対し,それぞれ205万4986円及びこれに対する平成14年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被相続人の債務を弁済した,共同相続人である本訴原告兼反訴被告(以下「原告」という。)及び本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)らが,同債務は法定相続分に応じて負担すべきこと(本訴事件)又は同債務は原告が単独にて負担すべきこと(反訴事件)を主張して,それぞれ,相手方に対し,不当利得の返還を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実,証拠により明らかな事実等)(1)被相続人aは,平成12年8月3日に死亡したが,その相続人として,妻である原告の外に,二女の訴外b,三女の被告c,四女の被告d,五女の被告e,六女の訴外f,七女の被告g,養子にしてfの夫である訴外hの8名がいた。
(2)aについては,平成9年3月12日名古屋法務局所属公証人i作成に係る公正証書遺言(平成9年第92号。
以下「本件遺言」という。)が存在し,これによれば,
ア別紙1の4(1)記載の土地は,b,被告c,同d,同e及び同gにそれぞれ持分5分の1あて,
イ別紙1の3(1)ないし(4)記載の土地建物(以下「本件倉庫」という。)は,b,被告d,同e及び同gにそれぞれ持分4分の1あて,
ウ別紙1の2(3)記載の土地はfに,
エ別紙1の4(2)記載の土地はhに,
オ別紙1の1(1),2(2),(4)及び5記載の土地建物を含む「財産の全て(現金・預貯金を含む。)」(以下「本件文言」という。)は原告に,
それぞれ相続させることとされている(乙1)。
なお,被告cは,aから,その自宅の土地建物を生前贈与されている。
(3)aは,平成11年4月1日ころ,別紙1の5記載の建物(以下「別件倉庫」という。)を取り壊し,その敷地である別紙1の1(1)記載の土地上に同1(2)の共同住宅(以下「本件アパート」という。)を建築した。
(4)aは,その相続時において,別紙1記載の各不動産を含む積極財産と,下記の債務を負担していた(以下,個別には「本件ア債務」などといい,総称して「本件各債務」という。)。
アj農業協同組合(以下「本件農協」という。)から平成2年7月20日に借り入れた4700万円の残金2880万0192円
イ本件農協から平成11年7月22日に借り入れた6000万円の残金5899万1238円
ウ株式会社k銀行の当座貸越金1693万2427円
(5)本件ア債務は,本件倉庫及び別件倉庫の建築資金に充てられ,本件イ債務は,別件倉庫を取り壊してその跡地に本件アパートを建築する資金に充てられている。
これに対し,本件ウ債務は,上記各建物の建築とは関係ない用途に充てられている。
(6)原告は,本件イ債務の内入弁済として別紙2記載のとおり,合計429万5430円を支払った。
他方,被告らも,平成14年7月16日までに,それぞれ,本件ア債務を法定相続分(14分の1)で乗じた205万4986円を弁済した(乙5の1ないし5の4)。
2争点及びこれに対する当事者の主張
本件文言の「財産」は,消極財産である本件各債務を含むか否か(本件各債務は,原告が単独で負担すべきものか,被告らを含む相続人全員が法定相続分に応じて負担すべきものか。)。
(1)原告の主張
本件文言は,消極財産である本件各債務を含まないから,同債務について本件遺言は何らの指定もしていない。
したがって,同債務は,相続人全員がその法定相続分の割合で負担すべきものである。
ちなみに,b,被告d,同e及び同gが取得した本件倉庫は,収益性が高いのに対し,原告が取得した本件アパートは,賃料月額約39万円であって収益性が低く,本件イ債務の分割弁済金(毎月23万8635円)に加えて本件ア,ウ債務を弁済しなければならないとすると,経済的に苦しい状況に置かれる。
(2)被告らの主張
本件文言は,消極財産である本件各債務を含むから,原告が単独で負担すべきものである。
本件ア債務に係る借入金は,本件倉庫と別件倉庫の建設費用等に充てられたところ,aは,別件倉庫を取り壊し,その跡地に本件アパートを建設すべく,本件イ債務に係る借入れを行ったものである。
この時点で,aは,本件アパートによる収入をもって,本件ア,イ債務を返済することができると判断したと考えられる。
また,本件ウ債務の実質上の債務者はf及びhの両名であり,借入金は同人らの長女の教育資金,結婚費用等に充てられている。
ちなみに,aは,本件倉庫と別件倉庫を賃料月額約63万円で賃貸し,ここから本件ア債務の分割金月額約27万円を返済し,本件アパートを建築した後は,賃料月額約75万円で賃貸し,ここから本件ア,イ債務の分割金月額約50万円を返済していたが,同人及び原告は,毎月約24万円の年金収入があったから,相続時点まで,数千万円の財産が形成されたはずである。

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第3当裁判所の判断

1一般に,法律用語としての「財産」が,積極財産と消極財産の両者を含み得ることはいうまでもないが,法律知識を有しない者が,常にこのような理解の下で上記語句を使用したとは断定できず,かえって,日常用語としては積極財産の意味で用いることが多いことも明らかである。
したがって,本件文言に使用された「財産」との語句だけで,aの意思がどのようなものであったかを断定するのは困難であり,これがなされるに至った経緯,相続人らに与える効果等の事情を総合的に検討して,合理的に判断すべきものである。
2(1)まず,本件文言の内容について検討するに,本件遺言は,公正証書遺言であって,法曹として十分な経験を有すると考えられる公証人の作成に係るものであるから,その中で使用されている語句は,このような公証人による理解を前提として使用されたものと考えられなくもない。
しかしながら,法律家による慎重な検討を経て,消極財産を含む趣旨で本件文言が記載されたのであれば,むしろ,非法律家である多数の相続人の疑義を招かないように,その旨を明記するのが自然とも考えられる。
かえって,本件文言中の「財産」の後には,積極財産である「(現金・預貯金を含む。)」との注記が記載されているにもかかわらず,消極財産については何ら触れるところがないというのは,その処理について検討しなかったことを推認させるというべきである。
(2)次に,本件相続によって各相続人が取得した財産の価額について検討するに,原告,h及びfの相続税申告書(甲30)によれば,原告が1億4442万円余,hが2747万円余,fが2509万円余,b,被告d,同e及び同gがそれぞれ1923万円余,被告cが78万円余であり,他方,被告ら及びbのそれ(乙11)によれば,原告が1億5047万円余,hが2815万円余,fが2562万円余,b,被告d,同e及び同gがそれぞれが1765万円余,被告cが162万円余であって,若干の相違があるものの,仮に両者の平均値をとると,原告が1億4744万円余,hが2781万円余,fが2535万円余,b,被告d,同e及び同gがそれぞれ1844万円余,被告cが120万円余となる。
これを前提として,本件各債務の総額1億0472万円余を原告の主張に従って相続人全員に分担させた残額は,原告が約9508万円,hが約2033万円,fが約1787万円,b,被告d,同e及び同gがそれぞれ約1096万円,被告cがマイナス約628万円となる。
そうすると,被告cは,aの死亡によって相当額の消極財産を負担する結果になる反面,原告は,その余の被告らの8倍以上の財産を取得し,被告らの各取得財産額との乖離が著しいことが明らかである。
しかしながら,前記のとおり,被告cは,aから既にその自宅の土地建物を生前贈与されているから,これをも斟酌すれば,その取得財産額は,b,被告d,同e及び同gと同程度と考えられる。
また,配偶者の取得分を子供らよりも格段に厚くすることは決して不自然とはいえない(配偶者については,相続税法19条の2によって相続税額の軽減が認められていることも,この判断を支えるというべきであるし,そもそも,本件遺言時とaの相続時とでは,その相続財産を構成する資産内容が異なっている。)から,上記の計算結果をもって,被告らの主張に正当性を与えるものとはいえない。
(3)さらに,本件遺言時におけるaの財産状況について検討するに,乙13の8によれば,平成9年当時,本件倉庫及び別件倉庫から得られる賃料は月額63万円余であり,本件ア債務の分割返済金は月額26ないし27万円であったことが認められるから,aは,その差額を取得できたと考えられる。
しかしながら,甲32,33,35によれば,aは,相当額の固定資産税・都市計画税,火災保険の共済金等の直接経費を負担していたことが認められ,これに他の公租公課等の負担をも考慮すると,年金の支給があるからといって毎月多額の蓄えが形成できるほど余裕のある生活を送っていたとまでは認め難い。
かえって,本件遺言時におけるaの債務は,本件ア債務のみであったところ,その貸付金は,前記のとおり,本件倉庫及び別件倉庫の両方の建築資金に充てられたものであるから,aとしては,その相続発生後において,同債務全額を,別件倉庫を取得させる予定であった原告のみに負担させる意思であったとは考え難く,本件倉庫を取得させる予定であったb,被告d,同e及び同gらにも分担させる意思であったと解するのがより合理的である(このように解さないと,相続によって,原告は,上記賃料から本件倉庫分の賃料(現時点でも,被告d,同e及び同gらが賃料月額約35万6000円を取得していることは,被告らの自認するところである。)を失うにもかかわらず,分割返済金はそのままであるから,別件倉庫の賃料だけでは返済金に不足す
る事態になりかねない。)。
(4)以上を総合すると,本件文言の「財産」が消極財産である債務を含むとまでは認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件遺言は,本件各債務の処理について指定をしたものとはいえないから,金銭債務の原則に従い,本件各債務は,その法定相続分に応じて各相続人が負担すべきである。
3よって,原告の本訴請求は理由があるから認容し,被告らの反訴請求は理由がないからいずれも棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

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